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沼尻/群響のマーラー9、至高の演奏! [群馬交響楽団]

今日の群響定期は、現在の群響のシェフ(首指揮者、芸術アドバイザー)の沼尻竜典氏が振った、マーラーの交響曲第9番でした。

多くの群響のプレーヤーの方々から、「今回のマーラーはいいよ!」と言われていたこともあって、本当に楽しみに出かけましたが、久々に深い感動を味わうことのできた演奏会となりました。

マーラーの第9交響曲は、個人的に思い入れが強い作品です。実は、若い頃、この作品に熱中しました。そのクライマックスは、1980年代、NHKホールでバーンスタインがイスラエルフィル振った演奏会を聞いたことです。この日は、今でも思い出すほど、すさまじい演奏会でした。イスラエルの副首相が聴きに来ていたこともあり(僕らの席のまん前!)、会場の周りを機動隊がとり囲み、会場で花束を持つ観客は、ことごとくSPが爆弾がないかをチェックされるようなものものしい雰囲気の中、行われた演奏のすさまじかったこと!これは筆舌に尽くしがたい壮絶な演奏となりました。

当時、円熟の極みにあったバーンスタインの粘っこくて、ダイナミックな指揮ぶりと、イスラエルフィル独特の濃厚な音色があいまって、観客は振り回され、そして、最後には全員が陶酔していくことが分かるような一体化のある演奏会でした。強烈な演奏が終わった後、永遠に続くかと思われるような深い静寂に会場全体が包まれたのが、今でも印象に残っています。朝日新聞で、吉田秀和さんが、この日のバーンスタインの指揮を司祭者と表現していました。バーンスタイン自身も、この日(9月8日でした)の演奏は、これまで彼が指揮したどのマーラーの演奏よりも素晴らしかったとインタビューで答えていました。

さて、今晩の演奏会ですが、正直、このときのバーンスタインの演奏と比べることができるほどの素晴らしい演奏と思いました。沼尻さんの指揮は、バーンスタインのような粘っこく、没入した解釈とは一線を画する、客観的な視線を常に持ちながらも、じわじわと熱していくような演奏でしたが、分厚くメロウな響きを持つ群響の弦楽器とこれに溶け込む柔らかくて実存感のある管楽器群の響きとあいまって、緊張感の高い、相当な名演と感じました。

これまで、聴いた3度の群響の演奏(解説には高関さんの演奏しか掲載されていませんでしたが、実際には、尾高氏の指揮でもやっていますよね。)と比較しても、表現の多彩さ、そして音楽の厳しさにおいて、完全に凌駕していたと思います。

CDにもなっている高関前監督の演奏は、ナマで聴いているとき、表現がやや単調で、正直、高関さんの分かりやすい指揮の限界を感じてしまい、第9に関してはやや期待にはずれたと感じましたが(高関さんの指揮では、7番や3番などはとても良かった!)、今回の演奏は、最初のチェロとホルン、そしてハープの点描画のような音色が聴こえた瞬間から、「これはいい演奏会になるな」と予感させられ、その予感は、最後の音を聴くに至り、完全に実現したと感じました。

本当に複雑で構成の大きな第1楽章はもちろん素晴らしかったですが、第2、第3楽章では、マーラーのオーケストレーションの面白さを100%味わえることができました。特に悪魔と天使が対決しているような激烈な第3楽章は、スピード感と彫の深さが共存していて素晴らしい名演奏でした。神秘的な中間部のトランペットソロやビオラのソロは、本当に感動的でしたし、コントラバスをはじめとした中低音の弦楽器の深くて、分厚い響きに本当にしびれました。

最後の、弦楽器中心の第4楽章に至っては、何度も涙があふれてしまいました。バーンスタインのような没我していくような表現ではなく、大変、構成感を大事にしていく丁寧な演奏でしたが、若いコンサートマスターが引っ張る弦楽器群が大変素晴らしく、芳醇な音色が会場中をやさしく包んでいくようでした。全体に人間性を謳歌しているような雰囲気で、ワルターが「青空に溶けていく白雲のよう」と表現した最後の部分も、神秘的というより、温かい気持ちになるようで、最後のヴィオラの音形を聴いて最後に感涙してしまいました。

僕は、これまで、哲学を勉強してきましたが、「形而上学」という言葉が本当に身近に感じられるのは、こうした表象の臨界に近づいた作品を聴いたときです。この作品、CDもたくさん持っていますが、気楽に何度も聴くという作品ではないですね。生と死、愛と性、楽と苦、様々な人生と哲学感が作品に表現されているような作品に対して、やはり、一期一会的に演奏会でしっかりと向き合って聴くのことが大切と思います。今回は、娘と息子も連れていきました。正直、この作品を聞かせるにはちょっと早いかなと思ったのですが、子供たちはそれぞれ深い感銘を感じてくれたようでした。

このような作品をこんな素晴らしい演奏で身近に聴ける僕らは本当に幸せだと改めて感じましたね。明日は、桐生でまたこの作品が演奏されます。このブログを読んでいる方で、今日の高崎の定期を聴かなかった方は、絶対に明日、桐生に聴きに出かけることをお薦めします。

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バルビ

本当にすばらしい公演となりましたね。新シェフに沼尻さんを選んだことがズバリと的中ですか。

最初にホルンがこけて、どうなるかと思いました。しかし、楽章を追うごとに非常に密度の濃い演奏となり、最後の消えるように終わるところでは、「終わらないでくれ」と祈るような気持ちにまりました。

おっしゃるように、この曲密度の濃い曲ですね。それも、今回のような名演奏あったればこそのことだと思います。

バーンスタインの第九をお聴きなられたのは、うらやましいですね。私にもチャンスがあったのですが、行けずにしまいました。もう、これからあのようなマーラー指揮者があらわれるとは思われないですからね。

でも、今日は本当にすばらしかったですね。勿論私は、明日の桐生公演も出掛けます。はやくからチケットは買っておきました。明日も楽しみだな~。
by バルビ (2011-02-20 01:05) 

ディオニソス

バルビさん、こんにちは!

昨晩の演奏は、決してキズの多い演奏ではなかったですが、一緒に聴いたマーラーオタク(!)の弟と、「マーラーのナマ演奏では、技術的なキズは演奏の評価とはまったく関係ない」と話をしていました。ベルリンフィルはともかく、ナマで聴いていると、ウィーンフィルなどはミスが多いオケですよね!

さて、冒頭の部分は、ホールの響きがないことにもめげず、最弱音で勝負した結果と感じました。僕の記憶では、この部分、高関さんの演奏では、相当に大きな音量で弾かせていたように思います。

なお、今朝、文章を少し手直ししましたので、ご報告しておきます。また、桐生の感想もぜひ聞かせてください!


by ディオニソス (2011-02-20 08:15) 

フォルテ111

流麗で洗練された指揮者の解釈に、やや荒々しいいものの、彫りの深い音を持つ群響の個性が見事にマッチした希有な名演でしたね!
by フォルテ111 (2011-02-20 17:11) 

ディオニソス

確かに!

沼尻さんの指揮は、ベートーヴェンを聴いたとき、R.シュトラウスのような洗練された印象があって、そのときは、ベートーヴェンの解釈としては、やや物足りなさも感じましたが、マーラーでは、オケの威力が圧倒的で、沼尻さんの解釈が止揚されている気がしました。

東京フィルのような洗練されたオケでは、こうした良さはでなかった気がします。

by ディオニソス (2011-02-20 17:16) 

バルビ

先ほど、桐生公演に行ってきました。いや~、こちらの公演も素晴らしかったですね。

私にとっても、この曲は最も大切な曲で、こうして身近に生演奏を、しかも連続で、更に名演奏で聴けるなんて、本当に勿体ないことです。

あらかじめ買っておいたチケットは、6列。前の方で聴いてみようと思いましてね。ところがこの6列が実は最前列。! かぶりつきでした。!

そうなんです。楽器編成が大きいので、舞台が客席側にせり出されたんですね。そんなこととは、つゆとも知らず。演奏は、指揮者を仰ぎ見るかたちとなりました。


ところが結果的に、これがよかったんです。この曲だからこそ。!


この曲のミソである、弦楽合奏が思わぬところで間近に聴けることになったんですから、もうけものでした。

で、この間近に聴く弦楽合奏ですが、分厚く、また切れ味よく、そして色っぽく、正にマーラー音楽の醍醐味を味わえましね。チェロのグルチンさんをはじめ、「ガバッ」と弓が弦をつかまえる迫力ある様や、有名なテーマを絶妙なヴィヴラートを効かせて演奏する、第1、第2ヴァイオリンの奏者ち。……。


満腹しました。

by バルビ (2011-02-20 18:30) 

ディオニソス

>かぶりつきでした。!
そうですか~! 桐生のホールは、音響に関してやや微妙ですよね。1階席は音が鳴らないですし、2階席は管楽器が鳴りすぎる気がしています。
最前列は、試したことがないですが、マーラー9番をそこで聞くのはちょっと怖い気がしますが…(笑)

>間近に聴く弦楽合奏
普段、Aオケのコントラバス席から弦楽合奏の音を聴いていますが、弦楽器を近くで聞くのは、醍醐味がありますよ!そんな魅力に憑かれて、今では群響の定席も前の方です。
by ディオニソス (2011-02-20 21:49) 

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